麗華と式神 その二





 麗華は風呂からあがり自室に戻ろうと歩いていた。
 突然足元に違和感を覚え立ち止まる。
 何かに引っ張られている様な気がするのだ。
 足元を見ても何もない。
 気のせいだと思いまた歩き始める。
 数歩歩いたところで、先ほどより強い力で足を引っ張られる感じがある。

 日が落ちた暗い廊下に、灯りは部屋から漏れる光と空に浮かぶ星と月だけ。
 蒸し暑いなか、庭から聞こえる虫の鳴き声が響いている。

 もう一度、辺りを見渡すが、やはり何もいない。
 ギシリと板の軋む音が聞こえてとび跳ねた。
 
 もしかして、藤森家に幽霊でもいるのだろうか。
 見るからに歴史を感じる建物だ。
昔は家で看取る事が大半だから、幽霊が居てもおかしくはない。

 恐い。

足元に何か幽霊が居るのかもしれないと、考えが頭を過ると寒気が足元から体を這いあがって来た。

 声にならない悲鳴を飲み込み。
 麗華は、自室と先ほどまでいた風呂場まで戻る距離ならどちらが近いか考える。
 風呂場は大浴場のように広く、露天風呂まである。
 先ほど数人の守護家女性陣と一緒に風呂に入っていたから、風呂場にはまだ人がいるはずだ。
 一人で居るより、誰かと一緒に居たい。

 ぐいっと
 足を何かに引っ張られる感覚が再度して、麗華は何も考えられなくなり廊下を走った。
「ひゃぁー!!」
 
 足を何かが引っ張る感覚は走っていても一向に取れない。
 必死になって逃げて、風呂場の扉を乱暴に開く。
 
 心臓は飛び出そうなほど鼓動を打ち、全力疾走した為息が苦しい。

 脱衣所の数個の籠にはバスタオルが入っている。
 まだ守護家女子陣は浴場の所に居るようだ。
 
 麗華は浴場の扉を勢いよく開け中に逃げ込んで助けを求めた。
「あの! ちょっといいですかぁ!!!!」
藤森家の屋敷に幽霊が居るかどうか、自分の足を引っ張っているのは何か聞きたくて必死だった。


「え、麗華さん?」
「わっぁああ。なんだよ、お前!」

 守護家女子陣の誰かが居ると思って浴場に逃げたのに、居たのは予想に反して守護家男性陣だった。

 突然乱入してきた麗華をみて、皆目を丸くして驚いている。
 麗華は目の前に何で、男子が居るのか理解できなく、浴場にいる人たちを見渡した。

 そして、数十秒後やっと理解した。
「ああああああわわわわ。ご、ごめんなさい!!!!!」
 転びそうになりながら走って浴場から逃げだした。
「本当にごめんなさい!!!!!」

 麗華は見てはいけないモノを見てしまい、顔が沸騰するほど熱くなる。
 優斗たちのきょとんと驚いた顔が頭から離れない。
 謝り叫びながら廊下を走った。

「なにしてるんだ」
 走っている廊下の先に謝り叫んでいる麗華を、呆れたように見た彰華が立っていた。
 麗華は、走って彰華の腕を掴み必死に訴える。
「わ、わざとじゃないの! わざとじゃないの! 本当に! 本当に違うの!!」
「何がだ。少し落ち着け」
「だ、だって幽霊がいて、だから、小百合さんとかに助けて貰おうと思ったの! なのに、優斗君とか大輝君とか蓮さんがいて!」
「幽霊? 何を言いたいのか全く分からない」
「足引っ張られたの! 本当だよ! 何度も引っ張られて!」
「足?」
 彰華は麗華の足元を見て、小さくため息を付く。
「……前に話しただろ。何かに引っ張られる事があれば何かの合図だと思えと」
「え? なに?」
 彰華は麗華の足元に手を遣り、何かを拾う様な仕草をした。
 そして、麗華の手の上に髪留めを置く。風呂に入る時に髪を留めるのに使用した物だ。
「数匹の式神が君の足にへばりついて、髪留めを渡そうと必死になっていたみたいだな」
「……し、式神?」
「飴玉をくれたお礼に、拾ってやったと言っている」
「そ、そうだったの?」
 幽霊だと思って騒いだけれど、式神の仕業だと知って脱力する。
「もう少し落ち着いて判断するんだな」
「……はい」





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