麗華と式神 その一


 飴玉を袋から取り出して、廊下に置いて障子を閉める。
 麗華はカサリと飴玉が動く音を聞いて、障子をゆっくりを開けて覗く。
 先ほどおいた所から飴玉が無くなっている事を確認して嬉しくなる。

 彰華が岩本家管理している式神が各部屋に一体づついると教えてくれた。
 そして、寝る前に式神に飴玉を一つ上げると良いと教わったのを実行してみたのだ。
 耳が兎でタヌキの尾で狩衣を着ていると言う式神。
 見えないけれども、飴玉が消えたと言う事は本当にここにいるのだと、実感できる。

 妖魔とかはみたいとは思わないけれども、この式神ならぜひ見てみたい。

 麗華は飴玉をもう一つ粒障子の前に置いてしめる。
 また、カサリと音が聞こえて飴玉が消えた。

 飴玉をかかえた式神を想像してふふふと笑う。
 絶対可愛い。

 今度は飴玉を三つ横に並べて、障子を閉める。

 カサリカサリと音が聞こえて飴玉が消えた。
 一体どのくらい飴玉を持って行くのだろうと、好奇心がわく。
 あと、自分の目にはどう映るのだろう。
 麗華は袋に入っている飴玉を全部廊下に置いて、戸を閉めた。
 そして、少しだけ障子をあけて飴玉の行方を見る。

 端から飴玉が、一瞬で一つ一つ消えていく。
 不思議な光景を眺めて、頭の中で式神が飴玉を抱えて行く姿を想像する。

 ふふふ。と笑っていると、廊下の先から「うわ」と驚く声が聞こえた。
 

 障子をあけて声の先を見てみると、彰華が廊下を見て驚いている。
 少し顔を出した麗華と目が合い、彰華は長めの前髪をかき上げため息を付く。
「何しているんだ。君は……」
「あ、彰華君。ほら、前に飴玉置いた方がいいって言ってたから、実行してみたの」
「散れ」
 彰華が小さく呟く。彰華に驚いて慌てて逃げた式神がいたのだろう、消えていた飴玉が数個麗華にも見えて廊下に転がった。
「いいか。飴玉は一日一つだけにしろ。飴玉を取り合って無数の式神乱闘していた。式神が乱闘しているなんて初めてみだぞ」
「え!? 乱闘があったなんて……」
 麗華は自分の部屋の前にいる式神に上げているつもりだったのに、他の式神も飴を欲しがっていたとは知らなかった。
 彰華は麗華の部屋の前に来て、障子の隅に視線を軽くやる。
「麗華の部屋付きの、式神が頬に飴玉を三つ詰めて倒れている。食べすぎだ」
 彰華の呆れた声に、麗華はリスが頬に種を詰めた姿を想像して、少し可愛いかもと思う。
 ふふっと笑うと、彰華は嘆くように首をふる。
「君が思っている様な光景じゃない。見えたら笑うなんて出来ないはずだ」
「そうなの……?」
「一つだけにしろよ」
「……はい」



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