麗華と式神 その三
「ふふふふふふ」
にまにまと、怪しげな笑いをしながら、廊下を見つめる。
父の封印が解けて、陰の神華としての力が戻った麗華は今まで見る事が出来なかった式神を見つめていた。
兎の様な耳に、狸のしっぽを持つ手のひら程の大きさの式神。
彼らは、藤森家の綺麗に掃除していた。それに各部屋の前に一体式神が居る。
雑巾がけをしている式神が、走るたびにしっぽと耳がひょこひょこ揺れて可愛らしい。
更に、可愛らしいのが、窓を拭く式神。一体では身長が足りないので何体かが肩車をして窓を拭いていた。
なんて、可愛らしいのだろう。
見ているだけで、幸せになれる気がする。
麗華の部屋を担当している式神が戸を開け放し、掃除中の式神を怪しげな笑みで見ている麗華の事を、首を傾けながら見つめている。
その視線に気が付いた麗華は、用意していた飴玉を式神の横に置く。
式神は飴玉を見たとたん花が咲いた様に、大きな目をくりくりさせて嬉しそうに頬に入れて揺れている。
「かわいい!」
この頃の麗華の日課が、事あるごとに式神に飴玉を上げる事になっていた。
「もう一個食べる?」
頬から飴玉が消えたのを見て、麗華はまた飴玉を式神にあげる。嬉しそうに頷きながら頬に入れる。
ハムスターに餌付けしているようで、楽しかった。
ある朝。いつもの様に式神に飴玉をあげようとすると、いつもの式神じゃない事に気が付く。
「あれ、あなたいつもの子じゃないよね?」
首を振って、いつもの子だと式神が主張する。
「違うよ。もっとこう、耳がふわふわして頬がほんわりしてよ」
感覚に鋭くなった麗華は、式神の個体識別が出来ていた。
麗華が否定すると、式神が酷く衝撃を受けた様子でがっくりと肩と耳を落とし、廊下をしょぼしょぼ歩き始めた。
「どうしたの? そんな気を落とさないで。とりあえず飴食べる?」
哀愁漂う背中に麗華は手に持っていた飴玉を、式神に差し出すと、式神が先ほどまでの落ち込みが嘘の様に飛び跳ねながら飴玉を取りにきて頬に入れて喜んでいる。
「飴玉が欲しかったのかな? 美味しい?」
麗華がきくとこくこく、と嬉しそうに頷く。
「可愛いなぁ。でも、うちの子何処行ったんだろ」
周りを見渡していると、いつの間にか隣の部屋を担当している式神や、他の式神達が麗華の目の前で目を輝かせて見つめていた。
「なに? 皆飴玉が欲しいの?」
一斉に首を頷かせて、目くりくりとさせて麗華を見つめる。
「かわいいなぁ。よしよし、皆にあげるね」
「麗華……」
一体一体に飴玉を上げていると、廊下の先から低い声が聞こえて顔を上げると、彰華がいた。手に麗華の部屋を担当している式神が居る。
「これは、何の騒ぎだ」
「式神君達が飴玉欲しがるから」
「散れ」
彰華の出現に慌てふためいて、元の場所に戻っていく式神達を残念そうに見つめる。
「飴玉は一日一個にしろと、前に教えたよな?」
「……うん。でも、式神君嬉しそうに食べるから」
彰華が麗華の部屋を担当している式神の首根っこをつまんで麗華に見せる。
「これを見てどう思う?」
「可愛い式神君」
「岩本家から苦情が来た。最近式神が太ると言う前代未聞の事が起きていると」
式神が可愛くて、良く飴玉を与えていた麗華は思い当たるふちがあり過ぎて、視線を逸らす。
「この他の式神の二倍の重量の式神をどう思う?」
「こ、ころころしてきて可愛くなったなっと……」
「式神の役目に支障をきたしたらどうする気だ。式神を餌付けするのは止めろ」
「えー。でも、くりくりした可愛い目で飴玉欲しいって見つめるんだよ!」
「止めろ。分かったな」
「はい……」