私の可愛い未来のご主人様 その一



 二十四歳の春。私の結婚相手が決まった。由緒正しき術家の第二子として生まれた私は、親が決めた結婚相手と結婚する事は昔から決まっていた。
 でも、流石にこれは予想外。
 懐石料理が並ぶ中、私は目の前に居る少年に目をやる。不貞腐れた顔を全面に出して、視線を合わせようとしない十四歳。まだ中学生。この会の為に急遽髪の色を戻した様な、少し明るさが残る焦げ茶の髪。顔立ちは凛々しいけれど、幼さが残っており私には、物足りない。これは立派な犯罪な気がする。十歳も年下で正式に結婚するのは彼が結婚できる年に為る四年後。私が二十八歳になった時だ。
 両親の決めた結婚に反対する事は出来ない。でも、これは酷い。あんまりだ。
 父が二人で庭の桜でも見て来てはどうかと提案する。それは、二人で席を立てと言う命令で、私は一応未来の主人が先に立ちあがるのを待って後に続いた。

 庭に出て二人きりになると、未来の主人は開口一番に「おばさん」と言った。
「ねぇ、おばさん。そっちからこの結婚、断ってくれないかな」
 殺意が芽生える。二十四の私に「おばさん」だと? 私は百六十七センチあるのに対しこのクソガキは百五十四センチぐらいだ。おでこを爪で弾く。
「お、ね、い、さ、までしょう。ふふふ。言葉使いにはお気を付けくださいまし」
「痛いな!」
「あら、御免あそばせ、目を潤ませるほど痛みがあるとは思いませんでしたわ」
 クソガキがおでこを押さえて涙目になっているのをくすりと笑う。こっちだって、こんな子供と結婚なんて冗談じゃない。大体、もし結婚して子供を産むとしたら、二十九歳ごろって事に為る。私は子供に囲まれて年を取るのに憧れているのよ。最低でも三人は産むって決めているのに、そんな三十歳近くで産んだら体力がきついって言うでしょう。それに子供の父親がこんな子供なんて論外でしょう。子供のおままごとじゃない。
 たとえ二十歳上でも三十歳上でも、私は結婚するつもりだった。でも初めから年下には興味ないのよ。
 でも、問題は両親が決めた結婚に反対する事は私には難しいと言う事だ。それにはいくつか理由がある。
「わたくしもこの結婚には問題があると懸念しております。雅仁(まさひと)様よりお父様にお話しされるのが一番よろしいかと」
 紋付袴が七五三の様なクソガキは渋い顔をする。
「僕は何度も反対した。でもそっちが図々しく圧力かけてきたんだろ。見合いに十三回も断られたって行くあてがないからって」
 ぐっ。痛いところを突かれた。別に私は年下意外ならどんな不男でも、性格破綻者でも浮気男でも結婚して家と子供を守っていく自信がある。でも、何故か向こうから断られるのだ。年頃が近く、いい感じになった男性もいたのに、実は相手がいたとか、私には釣り合わないとか、とにかく難癖付けて結婚を断られる。
 一番の原因は私の兄だ。典型的な独裁者。術者で力も強い。夫となる人が決まると、訓練と称してぼこぼこに痛めつける。「それで、綾奈(あやな)を守れるのと思っているのか!」とか、もう、本当に面倒くさい事を言うのだ。

 このクソガキは彪毛(あやけ)村の村長の孫。村一番の有力者の孫で将来を有望されている。私の家はそんな山奥の小さな村と比較するのも馬鹿らしいぐらい、大きな街に屋敷があり財力も術者の地位も遥かに高い。私の家と見合うだけの家が何度も結婚を断られた事により少なくなってきた。そこで、彪毛村のこのクソガキに話が回って来たのだろう。圧力を掛けてきたと言うのも、父がやりそうな事だ。大方結婚しなければ、彪毛村を潰すとでも脅したのだろう。
 十三回も断られた私には、自分から結婚を断る事は出来ない。そして、このクソガキも村を人質にとられて結婚を断れないでいる。

 なんて事だ。恐ろしい最悪の光景が現実に為る。

 こんな面倒な家に生まれた自分をここまで呪ったのは初めてだ。
 次にクソガキと会う日。それは私達の結納に決まってしまった。



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