節分小話



「麗華姫。今日は節分で御座います」
「式神さん。この豆で、豆まきするんですね?」
「さて、鬼を集めてみました。どれでも好きなものに思いのたけをぶつけると良いでしょう」
「…………この、ぐるぐる巻きに縛られて、可愛らしい鬼のお面をかぶっている人達って……もしかして」
「はい。守護家面々+αだ」
「六人いるって事は、彰華君も?」
「もちろん」
「式神さん、笑顔が恐いです」
「豆を当てて、心の中に住まう鬼を追い出す儀式が豆まき。彼らを清い心に変える良い機会でしょう。……思う存分日頃の鬱憤を晴らすといい」
「……豆まきってそんな儀式でしたっけ?」
「私式豆まきはそうだ」
「わ、分かりました。だから、そんな恐い笑顔は止めてください。色んな意味で心臓に悪いです」

「麗華姫。そんな優しく投げても、心に住まう鬼は払えません。もっと力一杯。こうやるんだ!」
「あわわわ!! ちょ、式神さん!」
「どうした。彼らへの心配は無用だ。守護家は傷の治りが早い。ちょっと痣が出来ても夜には治るでしょう」
「だからって」
「私は彼らの為を思いやっている。……それに麗華姫に彼らが何をしたかお忘れではあるまい」
「う。で、でも」
「さあ。彼らの鬼を祓ってあげなさい」
「……はい」
「掛け声は?」
「……鬼は外! 福は内!」







その後

大輝


「痛ぇ! 見ろよ! 刺青の如く痣が出来たじゃんか!」
「ご、ごめん。式神さんが思い切り投げないといけないって」
「だからって。俺にまで投げる事ないだろ!」
「…………でも、大輝君だって最初酷かったじゃん」
「そ、それは、…………そうだけどよ」
「ほら、痣になった所にお薬塗るよ」
「痛ぇ、その薬沁みる!」
「でも、治りが早くなるから。がまんしてね」


真司

「信じられない。マジで痛い。どんだけ、馬鹿力で投げつけてんの」
「ごめん。ほら、お薬持ってきたから」
「薬塗れば、どんな力入れてもいいのかよ」
「そこまで、力込めてないけど」
「これがか?」
「……痛そうですね」
「痛いんだよ。第一あの式神なんだよ」
「式神さんだからね。……お詫びに、真司だけに恵方巻ロールも作ったよ。真司の好きな生チョコ入りだよ」
「……それで、喜んで許すと思うとは、おめでたい頭してんね」
「ほ、ほら。食べて、おいしいよ。はい、あーん」
「しょうがないな。…………味はまぁまぁだね」
「(よかった。真司のまぁまぁは高得点だ)もっと食べる?」
「それより、薬。マジで痛いから」
「分かった。いま塗るね」


真琴

「真琴さん。豆当たった所、痣に為ってませんか? 薬を持って来たんですけど」
「あぁ、もう治しちゃった」
「そうですよね。真琴さんは回復得意ですもんね」
「でも、その分力使っちゃったから、補充したいな」
「……血ですか?」
「いや、ちょっと立ってそのままね」
「はい。ってわぁ、何で抱きつくんですか!?」
「麗華さんの暖かさで補充中」
「それで、回復するんですか!?」
「うん。麗華さん良い香りする」
「(恥ずかしい!!)」






「あれ? 蓮さん。痣は大丈夫ですか?」
「あのくらい平気だ」
「お薬持って来ましたけど、塗りますよ」
「いや。いい」
「そうですか? 足。引きずってません?」
「気のせいだ」
「式神さんが思いっきり投げてたの当たったんですよね? ほら。良いから座ってください。これ、式神さん特製の薬なんで効きはいいですよ」
「逆に効きが疑わしいと思うが」
「そ、そんな事ないですよ。式神さんもそこまで、性格悪くないですから。足見ますね。あぁ。これは痛そう……塗りますよ」
「…………」
「……はい。できた」
「世話を掛けたな。有難う」
「(わぁ、蓮さんが微笑んでくれてる! 嬉しいな)いいえ」


優斗

「優斗君、痣は大丈夫?」
「……自業自得だって分かってる」
「あ、あの。そんな、落ち込まないで。痛かった?」
「うん。でも、麗華さんの気持ちが良く伝わったよ。憎しみが込めてあったね」
「無いよ! 憎しみは込めてない」
「ほんとう?」
「うん」
「じゃあ、治りが早いように痣一つ一つに、キスしてくれる?」
「え?」
「式神が投げて当たった痣が本当に痛くて辛いんだ。……だから」
「でも、お薬持って来たよ? これじゃ駄目?」
「これにそれが効くといいけど」
「わぁ……。本当に痛そう。色がどす黒い」
「痣一つ一つが無理なら、ここだけでいいから。頼むよ」
「で、でもそこって、胸元……。手とかなら、良いけどそこはちょっと抵抗が」
「――っ痛。……呼吸が苦しい」
「大丈夫!!」
「……大丈夫。呼吸が苦しいだけだから。そのうち治るよ」
「わ、分かった。ちょっと、キスするだけで楽に為るなら」
「ありがとう」
「(……なんか、胸元にキスするのって緊張する)」
「わあ!!」
「え。なに!? 豆? 式神さん?」
「豆が足りなかったようだな」
「いえ、豆はもう十分です! じゃあ、麗華さんまたあとで!」
「あ、優斗君が走って逃げちゃった」


彰華

「なんで俺にまで……。こんな目に遭ったのは初めてだ」
「ま、まあ。そんな怒らないで」
「守護家は治りが早くても俺は普通なんだぞ、守護家女子陣に見つかったら、麗華。殺されるぞ」
「あ……か、考えてなかった。ご、ごめんね。でも、ほら、式神さん特製の薬貰ったから!」
「麗華。節分とはどういう儀式だった?」
「え、家にいる鬼を祓って福をまねくようにする、もの?」
「違う。『豆を当てて、心の中に住まう鬼を追い出す儀式が豆まき』だ」
「しょ、彰華君その手に持っているのは!?」
「安心しろ。麗華の中にある鬼も祓ってやろう」
「ぎゃあぁぁ!!」



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