麗華と式神 その四


「式神君」
 麗華は花守公園の祭りに行った帰り、式神にお土産を買ってきていた。
 兎のような耳に、狸のような尻尾を持つ式神は麗華の笑顔を見て首を傾ける。
「べっこう飴を買ってきたの」
 いまだに浴衣姿の麗華は、戸の前に座っている式神の隣に座りビニール袋からべっこう飴を取り出す。
「まず、普通の星型べっこう飴。それから苺飴、リンゴ飴、ミカン飴、ミルクの入ったべっこう飴」
 以前、飴のやり過ぎで麗華の部屋付式神が太ってしまったと苦情が来たため、会うたびにあげていた飴玉を一日一個にしていた。
 でも、べっこう飴を露店で見つけた時に部屋付式神が食べているところを見たいと思いたくさん買ってしまったのだ。
 式神の前にべっこう飴を並べていく。一個出すたびに、式神の瞳がキラキラと輝いていく。
「彰華君に怒られたから一個だけね。どれにする?」
 式神は立ち上がり、自分の体の半分はありそうなべっこう飴を食い入るように一つ一つ見ていく。
ふらふらと、どれにしようか悩んでいる姿も可愛らしく麗華の頬が緩む。
 部屋付式神が悩んでいると、他の仕事をしている式神や、隣の部屋付の式神たちが並んでいるべっこう飴に引き寄せられるように寄ってきた。
 麗華の部屋付の式神がよってきた他の式神たちに焦ったように、手に取れるだけのべっこう飴を掻き寄せて自分のものだと主張する。
「駄目だよ、一個だけ」
 麗華の部屋付式神は、怒られた子供のように、しゅんとしてからべっこう飴から手を離す。
 それから、一番大きなリンゴ飴を掴みこれにするっと、自分と同じぐらい大きさのリンゴ飴に抱き着いた。
 可愛らしい姿に麗華は微笑む。
「あぁ。式神君がカメラに写ったら写真撮るのに」
 麗華はリンゴ飴の包みを外し、式神に渡す。式神は丁寧にお辞儀をしてからリンゴ飴を受け取った。
「食べられる? 小さく切ろうか?」
 麗華が聞くと式神は首を大きく振り、リンゴ飴にかじりついた。式神のあごは強いらしく、小さな歯型がリンゴ飴に付く。満足そうにリンゴ飴を堪能しているようで目を幸せそうに細めている。
「可愛いなぁ」
 麗華が式神を眺めていると集まってきていた他の式神たちが残っているべっこう飴を欲しそうにじっと見つめていた。式神が四体いたのでちょうどいいと思う。
「好きなの取っていいよ」
 式神たちはいっせいに大きいのから取って行く。袋を開けてあげると、式神が丁寧にお辞儀をしてからべっこう飴にかぶりついた。
 式神たちが、べっこう飴にしゃぶりついている姿を見て、麗華は満足する。
 麗華にべっこう飴を貰っていると他の式神たちに伝わったのか、仕事道具を持ちながらどこからともなく式神たちがやって来た。はたきや、箒、ぞうきんを持った式神たちは、ビニールに何も入っていないことに気が付くと、気を落として帰っていこうとした。
「まって、なんとなく、こうなるだろうと思たから、べっこう飴じゃないけど、金平糖も買ってきたの」
 麗華は部屋から金平糖の入った瓶を持ってくると、式神たちは礼儀正しく一列に並んでいた。一粒渡すと、式神たちは丁寧にお辞儀をして金平糖を口にほおばる。

 麗華の周りには気が付くと頬に金平糖を入れて目を細めて幸せそうにする式神たちで溢れていた。

「可愛すぎる……」
 その姿を見て麗華は頬を緩める。

「麗華」
 廊下の先から聞こえた声に、麗華は肩をびくっと震わせ声のする方を見た。
「しょ、彰華君?」
「散れ」
 彰華が言うと、集まっていた式神たちが蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。べっこう飴を貰っていた式神たちも、器用に飴の棒をもち持ち場へ帰って行く。慌てて持ってくその姿さえ可愛らしいと思う。
「何を言われるかわかるな?」
 麗華の元まで歩いてきた彰華は怒っているようで声が硬い
「式神君にお土産のべっこう飴をあげていたの。それだけだよ」
「藤森家中の式神たち全てを集めて、飴をあげていたのか?」
「金平糖は小さいから数があってね。並んで待ってまで欲しそうな顔するならあげたくなるでしょう?」
「岩本家から苦情が来た。式神が仕事を放棄し、飴を貰いに行っていると」
「仕事をさぼるのは悪いことだね」
 麗華は怒っているらしい彰華の顔を、見ないように腕を組み大げさまでに彼に同意し何度も頷く。
「いつから、藤森家中の式神の餌やり係になった?」
「そんなつもりはないけど、可愛いから」
「可愛いという理由で、岩本家の式神を奪う気か?」
「いやいや、そんな気はないんだけど」
「岩本家の指示を聞かず、仕事を放棄する事態になっている。どういう事かわからないのか?」
「それは、まずい事になっているって事でしょうか?」
 彰華は軽く息を吐く。
「……いいか。これからは、自分の部屋付式神以外に飴をやるな」
「キュン!」
 彰華が言うと、他の部屋の前や、木の陰や、遠く離れた部屋から覗く式神たち、麗華の部屋付式神以外の式神が彰華に抗議の声を上げた。
「黙れ」
「……きゅん」
 小さく抗議する式神たちに、彰華はもう一度睨んだ。彰華を見て居た式神たちはハッとしたように、丁寧に一度お辞儀してから仕事へ戻って行った。

「あの、なんか可哀想に……」
「麗華、何度も言わせるな。わかったか?」
「……はい」

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