二章 十四話





 始業式は午前で学校が終わる。生徒たちが下校して行き校内に居る生徒たちが少なくなることを待ち、麗華に校内を案内していた。体育館、音楽室、美術室、科学室、視聴覚室などを周り、約束通り図書館で湖ノ葉からおすすめの本を借り、部室塔へ行く。
部活動で部室にいる生徒たちの声が聞こえる廊下を歩きながら、優斗が部活の説明をしてくれた。
 花守学園では、部活に入るか委員会に入るかを推奨されている。特別な事情がある際は免除されるが、殆どの人が委員会や部活に入っているという。
「部活に入ったことなかったから、先輩後輩にちょっと憧れていたんだよね」
 麗華は今まで、生活のためにバイトを行っていたので部活などする余裕はなかった。そのため、真司たちのする部活の話や委員会の話にわくわくしていた。
「何か入りたい部活や委員会はあるの?」
 麗華は頭を傾けて考える。運動神経はいい方なので、運動系もたのしそうだ。バスケやバレー、長距離走、得意な運動を頭に浮かべてから、軽く頭をふる。考えてみれば、今、片足を怪我している。無理な運動は極力避けるようにと言われているので、運動系は除外して考えるべきだ。

 何にしよう。
 試しに他の人たちが何の部活に入っているか聞いてみると、蓮と優斗と真司は生徒会、大輝はバスケ部に入っていると回答がある。生徒会は成績上位者から選ばれる事になっている。転校生の麗華が生徒会に入るためには、明日行われる学力テストで学年二十位以内に入る必要があった。転入テストの結果があまり良くないと自覚していた麗華は、生徒会は無理そうだなと、生徒会に入ることも除外する。

「麗華さんの場合、部活や委員会よりも藤森家や術について学ばなきゃいけないことがあるから、そちらを優先させた方がいいかもしれないね」
 優斗の言葉に、嫌な現実を思いださせてくれたと麗華は苦笑いする。陰の神華となってから、古文書のような藤森家の歴史書を読むように渡され勉強中だった。術についてもまだまだ未熟なので日々特訓中である。部活や委員会をやる時間よりも、そちらをやる時間を大切にするべきなのだろう。
「そうだね。もうちょっと、こちらの生活に余裕が出てから考えようかな」
 何気なく外を見ると、運動部の生徒たちが校庭を走っている姿が目に入った。部活をするのは楽しそうだけれど、当分の間は部活や委員会に参加することはないだろう。

 華白館は二階建ての建物だ。一階の和室に地下に繋がる隠し扉があり、地下に降りる階段がある。地下は三階まであり、術の練習場になっていた。
地下二階に陰陽の守護五家と麗華と彰華が集まりある儀式をしようとしていた。
 十二の蝋燭が部屋の壁かけにかけられており、橙色の柔らかな灯りが部屋を包んでいる。四方にはお香が置かれいまだにお香の匂いになれない麗華は、軽く咽た。
 麗華と彰華が上座に座り、その前に横一列になった守護五家がいる。皆はかま姿で執り行う儀式に、麗華は少し緊張していた。

 これから行う儀式は、守護家が神華に隠されている華神剣を取り出すものだ。陰の守護家たちは、麗華が神華だと分かった時から、この儀式を行いたがっていたが、彰華が首を立てに振らず、今日まで行われないままでいた。
 神華の胸に咲く華に守護家の手にある印を合わせて、言葉を唱えると華から守護家が使う武器がでるという。麗華はこの話を真司から聞いた時にグロテスクな行為だと思った。胸から剣が出るという事が常識から受け入れられなかった。真司曰く、神秘的行為らしい。
 彰華が見本を見せてくれ、その後、麗華と真琴が行う事になっている。

「それでは、始めよう」
 彰華が立ち上がりすっと手を横にそらすと、火山家の麻美がゆっくりとお辞儀してから立ち上がる。麻美はいつもの緩くかかった長い茶色の髪を今日は低い位置で一つに縛っていた。袴と言う事でいつものセクシー系の服よりも露出が少ない着物なのに、いつも以上に色気のある仕草で、彰華の手を取った。
「尊き蜜を五星護契約の下、頂戴いたします」
 軽く指先に口を落とす。ほんわりと、指先が淡く光る。
「指先に唇が触れた時に、こちらの力を受け取る側に流す」
「力を流す……」
 麗華は、持ってきていた術関係をメモしているノートに彰華の言葉を書き写す。力の流す感覚は、なんとなくだがわかるようになってきている。要はそこに集中するという事だ。
「流す力の量が中途半端だと、こちらが痛い目をみる。麗華には、もう少し簡単な方法を取ることを勧めよう」
 麗華は経験上彰華の、簡単な方法に嫌な予感がした。蜜関係の力は、神華の体液が元となる。
「キス以外であるの?」
 先手を取って麗華が言うと、彰華は軽く笑んだ。
「学習しているようで何よりだ。そう、ディープキスで体液を受け流す方が楽でいい」
「ご遠慮申し上げます」
 麗華は深々と丁寧にお辞儀をして、拒否を表す。逃げ方がうまくなって来たと、軽く彰華が笑った。
「好きにするといいが、後悔することになるぞ」
「どういう意味?」
 彰華がちらりと陰の守護家に向けて視線を送り、やってみるのが早いだろうとそれ以上言うのを止めた。彰華の言葉を怪訝に思う陰の守護家たちだが、これから行われるずっと憧れていた儀式を前に、期待を膨らませていた。彰華と陽の守護家が行っている華神剣の儀はいつも滞りなく行われているため、問題はないと考える。
「軽く胸を開き、神華に触れられるようにする」
 彰華は自分の衿を軽く緩め手が入るようにした。陽の神華が胸元からほんの少し見える。
「麗華がうるさいだろうから、言っておくが別に陰の神華を見せる必要はない。触れやすくするだけでよい。肌に触れることになるが、騒ぐなよ」
 麗華はメモを取りながら頷く。胸を完全に見せるわけではなくて、少しほっとする。幾度となく、麗華の胸に手を当てられている。キスはいくらなんでも嫌だが、今更、胸に触れられることは嫌だと逃げる事はできないと、腹は括っていた。
 彰華が軽く麻美に目をやると、麻美は心得たと頷く。麻美は開いた彰華の衿から手を滑り込ませ陽の守護家の左手の印を、陽の神華に合わせた。

 彰華と麻美の日線が合い、彰華は軽く麻美の頬に手を当て微笑んだ。ほんわりと、赤く光っているところを見ると、どうやら手から力を流しているらしい。軽く、彰華が麻美の額に口を落とした。麻美は少し照れたように笑み小さく「行います」と声をかけた。
「五星護契約の下、我願う。尊き華の加護があらんことを」
 麻美が手を当てているところが淡く光る。柔らかな風が二人を中心に舞い起こり、部屋の隅にかけられている蝋燭の炎が揺れた。麻美の頬が高揚で赤く染まるり幸せそうに目を細めた。
 麻美の手が、彰華の胸さらに奥へ入りこむ。麻美の手が肘まで中へ入り、中へ入れない麻美の袖がまくられ風に揺れた。
 麗華は、目の前で行われている現象に目が落ちるかと思うほど見開いて見つめてしまう。彰華の体を突き抜けていていいはずの、麻美の手はどこへ行っているのか。手品を見ているような気分になる。
「クッ」
 小さく、彰華が唸った気がしたが、気のせいだったのか麻美を見つめたまま口元は笑っていた。
「あぁ……ぁ」
 麻美が吐息をもらすように発している、艶めかしい声に赤面してくる。そういえば、真司は神華とシンクロするから、快楽が得られる、なんとか言っていた気がした。
 うわぁ。これは見ているほうがきつい。ちらりと、目線を外して守護家の方を見ると、みんな興味津々と軽く羨望の眼差しで麻美と彰華を見つめていた。
 麗華が二人から視線を外しているうちに、変化があり麻美がゆっくりと手を引き抜いていく。

 引き抜かれた手には一振りの刀が握られていた。鞘はなく抜き身の刀身は紅く発光している。麗華はその刀を見て恐怖に身震いした。彰華の胸から抜かれた刀の赤く発光している部分が、麗華には彰華の血に見えた。本物の血じゃないはずだと、目を凝らす。部屋の隅に置かれたお香とは別の甘い香りが漂う。
神華の香りだ。と本能的にそう思った。
引き抜かれた刀を麻美は軽く横へ振り払う。すると、刀の発光は無くなり、銀色の輝きが代わりに見えた。
 麻美が満足そうに刀を聞き手に持ち変えて掴む。彰華は乱れた衿を何事もなかったように軽く整えた。麗華は胸元から血が滲んでくるんじゃないだろうかと、胸を注視した。だが胸から、血が流れてくる事はなかった。
「このように行う。大丈夫か?」
無意識のうちに自分の胸にある華を軽く押さえてしまっていたようで、衿元がしわになっている。軽く落ち着くように深呼吸を行い。彰華に大丈夫だと言ってから、ノートに今の出来事を書き綴る。ビシビシと感じる次は麗華と言う視線を、ノートに書き綴り続けることで少しでも先延ばしにしようと、無駄な抵抗を行う。
彰華の胸元から出てきた刀に彰華の血が付いているようにしか見えなかった、と書き綴ったと頃で字が震えていると気が付き、周りに気が付かれる事のないように書くことを止めた。

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2016.11.26

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